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カナダでの投資: Tax-Free First Home Savings Account

(情報更新、加筆/修正、体裁修正等を含む)

Tax-Free First Home Savings Accountとは

Tax-Free First Home Savings Account (TFFHSA または FHSA) とは、「初めての住居購入に向けての頭金を貯めることを支援する」という名目で、カナダ政府が2023年よりその制度の施行を始めた、課税の免除を柱とした貯蓄支援制度です。
18歳以上でカナダ在住であり、住居購入を経験していない (詳細は後述) 全ての人にアカウント開設の資格があり、一年間につき最大$8,000、生涯合計$40,000の拠出が可能で、そのアカウント内で運用している限り運用利益に対しての課税を免除し、さらに引き出しの際にも課税がないとする制度です。

  • (RRSPのように) アカウントへの拠出はそのまま該当年のタックスファイリングの際に所得からの控除として利用することができる
  • (TFSAやRRSP/RESPのように) 運用利益に対しての課税が免除される
  • 「初めての住居購入のために利用する」限りにおいては、(TFSAのように) 完全に非課税で引き出すことができる

つまり、RRSPとTFSAのそれぞれの利点を両方同時に持った、とても強力な非課税アカウントと言える制度です。

* FHSAの様な非課税アカウント(Registered Account)の基本と、RRSP/TFSAと比較した際の利点等を理解するためには、そもそもTFSAとRRSPに関する理解は必須と言えます。TFSARRSPの詳細に関しては、それぞれの解説ページを参照してください。

アカウント開設資格

アカウントを開設するための資格は3つ。
  • 18歳以上であること*
  • (税制上の定義において) カナダ居住者であること
  • アカウントを開設しようとするその年、または現時点から遡った4年の間、自らが購入した住居に住んでいたことがないこと。
    (つまり厳密には、過去に住居を購入したことがあっても、それが4年より前であり、さらに4年より前の時点からすでのそこには居住していないのであれば、アカウントを新規に開設することは可能であるということになります)
注意
BC州、NB州、NL州、NS州、NT準州、NU準州、YT準州では、各州個別の「legal age」の定義に関する法律により、FHSA口座を開設できる年齢は18歳ではなく19歳となっています。

拠出

一年間につき$8,000が拠出限度額として設定され、生涯合計$40,000の拠出が可能です。
アカウントを開設した後に、ある年において$8,000に満たない拠出しかしなかった場合は、(TFSAのシステムと同様に) 未使用の分が翌年に繰り越されます。ただし、繰り越しができるのは一年分の最大額に相当する$8,000のみ。つまり、複数年にわたって未使用の分がありそれが$8,000を上回る額だとしても、翌年分に繰り越しができるのは$8,000までです。そして生涯の拠出額合計が$40,000に至った時点で、それ以上の拠出はできなくなります (年間の拠出額合計を上回る拠出をしたり、生涯拠出額合計を超える拠出をすれば、ペナルティが発生することとなります)。
つまり、最速で5年間 ($8,000 x 5年 = $40,000) で生涯限度額に到達するような拠出をすることもできますし、あるいはもっとゆっくりと、例えば10年間かけて ($4,000 x 10年 = $40,000) でゆっくりと拠出をするというようなこともできるわけです。
また、TFSAと同様に、複数の金融機関においてFHSAアカウントを開設することができますが、年間及び生涯の拠出限度額は当然そのままです。TFSAと同様、自分自身で拠出額の記録等を管理する必要があります。

拠出をした分の額は、その年のタックスファイリングにおいて、「控除」として利用できます。つまり、RRSPへの拠出と同様に、その年の課税対象所得額そのものを減らすために、総所得額から引き算 (deduct) することのできる項目として利用できるということになります。
重要:
RRSPに既に入っている資金からFHSAへ資金を移動 (transfer) させるすることで、FHSAへの拠出とすることも可能です。
この場合、RRSPからの移動は「引き出し」とはみなされないため、非課税で行うことができます。
  • ただしこの場合でも、FHSAの拠出限度額はそのまま適用されます。RRSPからの移動であれ、通常の拠出であれ、年間$8,000、生涯$40,000の限度額ルールはそのままです。
  • また、この引き出しによってRRSP側の年間拠出額が影響をうけることはありません。引き出しを行ったことによって、翌年のRRSPの年間拠出限度額が増えるようなことはありません。

運用

TFSAやRRSP/RESP等と同じく、拠出先によって様々な投資商品を通して運用をすることができます。そして、運用によって得た利益は完全に非課税です。「FHSAという箱」の中で運用をしている限り、利子利益やキャピタルゲインをタックスファイリングの際に所得として申告する必要は一切ありません (そもそもT5フォーム等も発行されません)。

引き出し

考え方として、TFSAと違い、頻繁な「引き出し」という概念は意識するべきでないとも言えます。「FHSAからの引き出し」とは、まさに「住居購入」の時が来た時に行う一括引き出し。それがこの制度の目的として想定されているメインの「引き出し」のシナリオとなります。「住居購入」の機会が訪れた際に、その目的 (主に頭金) に利用される限りにおいて、運用益分も含めFHSAから非課税で引き出しを行うことができます。
重要:
初めての住居購入の為の資金調達のもう一つの手段として、RRSPから $35,000 を非課税で引き出すことのできる「Home Buyers’ Plan (HBP)」という制度が既に存在します。FHSAとHBPは、ともに同一の住居購入の為の資金として併用する (両方とも利用する) ことができます。つまり、住居購入の為の資金として、一人に付きFHSAから $40,000 (プラス運用益)とHBPから $35,000 で、合計 $75,000+ が利用できる (二人分ならば$150,000+) ということになります。

様々な理由により「住居購入」の機会が訪れない/訪れなかった場合に際しては、以下のような「救済」的ルールが用意されています。
  • 71歳に至るまでの間で、いつでも自由にFHSAからRRSP (またはRRIF) に資金を移動させることが可能。また、この移動は非課税で行うことができ、さらにRRSPの拠出限度額に影響を与えない/影響を受けない
    (つまり、移動させることによって当該年のRRSPの拠出限度額が減ることはないし、また、移動させようとする時点で、当該年のRRSPの拠出限度額に空きがあるかどうかも関係ない)。

    >> この場合は、結果的にその分を将来RRSPから引き出す際には所得となり課税対象となるため、FHSAの「非課税で引き出せる」という利点を失うという点が、ペナルティ的要素となります

  • FHSAアカウント開設から15年たった時点で、FHSA内の資金を使用する機会がなかった場合、アカウントを閉じる必要がある。その際は、上記のようにRRSP (またはRRIF) に資金を移動させるか、単純に課税対象の収入としてその時点で引き出す必要がある。

    >> 上の場合と同じく、RRSPに移した場合は未来の時点で、即時に引き出した場合は即時に、所得となり課税対象となるため、FHSAの「非課税で引き出せる」という利点を失うという点が、ペナルティ的要素となります



Tax-Free First Home Savings Accountを始めるべきか

これまで、住居購入の頭金を貯蓄するために利用できるRegistered Account (つまり、目的を指定されずに利用できる非課税貯蓄アカウント) はTFSAしかなかったわけですが、FHSAの登場により、住居購入資金貯蓄に特化したRegistered Account枠ができたわけです。将来カナダで住居購入を考えている方は、間違いなく利用すべき制度であると言えるでしょう。
例えば最初の5年間で毎年最大の$8,000を拠出し続け、その後投資利回り5%を毎年実践できたとするならば、15年後の残高は$75,600程。パートナーとの合計であれば$151,200。もう少し頑張って利回り7.3%が実現できれば、1人$100,500、二人で$201,000程。それだけの資金を生み出す可能性のあるアカウントを、TFSAとは別の枠として持つことができるということです。

また、そこまで先の未来はまだ見据えておらず、「将来家を買わないかもしれない...」という懸念がある方も多いことでしょう。ただ、上記の2点の「救済」的ルールは、結果的に家を買わなかったとしても (あるいはもっと極端に「そもそも家を買うつもりはない...」のだとしても)、結果的に少なくとも損をすることは無いようにデザインされたルールと言えます。

これらの点を鑑みても、少なくとも10年以上の単位で今後もカナダに住み続ける予定であるのであれば、Tax-Free First Home Savings Accountは、ぜひとも利用すべき制度であると言えるでしょう。