BAR


カナダ生活: MLMのはなし

(情報更新、加筆/修正、体裁修正等を含む)

MLMとは

「MLM (multi-level marketing / マルチレベル マーケティング)」、または「Network Marketing (ネットワーク マーケティング)」 という言葉を聞いたことがある方は多くいることでしょう。あるいは既に自ら関わっているという方もいるかもしれません。
日本語では「連鎖販売取引」または俗に「マルチ商法」と呼ばれ、「商品を購入して販売ネットワークに参加した会員が、さらに他者を勧誘し商品の購入を促し、ネットワークに加入させ、新たに会員となった人がさらに新しい会員を加入させ組織を拡大していく..」という方法によって販売/販路を拡大させるという「商法/マーケティング手法」です。
日本においては1970年代からすでに浸透していて、例えば「久しぶりに昔の友人から連絡が来て嬉しくて会ってみたら、マルチの勧誘だった..(泣」なんていう経験をしたことがある方も多くいるかもしれません。
完全に違法であると定義されているいわゆる「ネズミ講」または「ピラミッドスキーム」とは違い、「MLMの商法自体は違法ではない」という社会認識の元、近年では特に各種ソーシャルネットワークサービスの拡大と共に、現在においても様々な新興商品 (主に化粧品、健康食品、健康器具等) を扱いながら現れては消え..を繰り返し、存在し続けています。

カナダで生活するにあたり、「日本にいる時にそんなハナシを聞いたことがあったな~/勧誘をしていた知人がいたな~...」ぐらいの認識しかしていない方は、良くも悪くも、その認識を改める必要があるかもしれません。というのも、実はこの商法の本場はアメリカ (またはカナダを含む北米) であり、その規模と (良い意味でも悪い意味でも) その浸透度/認知度は、日本よりもはるかに大きなものとなっています。新生活、あるいは慣れない言語環境において、自ら積極的に他者と関わろうと純粋に努力する過程において、図らずも「MLMへの勧誘」と触れ合ってしまう機会は、日本よりもはるかに多いと言えるでしょう。

弊サイトのスタンスとしては、合法である以上、「MLM」自体を完全に否定するものではありません。あくまでパーソナルファイナンスというコンテクストにおいての評価と、カナダ生活において「MLM」をどう認識するべきかという点を指南できればと思います。

MLMとの向き合い方

知人から直接勧誘を受けた、あるいは、友人が勧誘活動を行っていることを聞いた...等、何らかのきっかけで特定のMLM会社/商品のことを知りたいとなった際、様々な思案の結果、おそらく最終的な心象基準/判断基準となるのは、「1. 怪しくないのか?」、「2. 本当に儲かるのか?」、「3. どう勧誘を断ればよいか? / 自分に勧誘活動ができるのか?」という点に絞られるのではないでしょうか。

1. 怪しくないのか?

カナダにおいては、日本の公正取引委員会に相当する「Competition Bureau」が定める「Competition Act (=不正競争防止法): Section 55.1」において、「MLM」の定義と、違法である「ピラミッドセリング」との定義とが明記されていて、その違いが強調されています。ただし、実際のところその違いとは、(日本における「マルチ商法」と「ネズミ講」の線引きの議論とほぼ同様に)「商品の販売よりも、勧誘報酬が利益の主となる仕組みとなっているか否か」「実際の商品自体に相応の価値があるか否か」...といった、ある意味曖昧な線引きとなっている感は否めません。カナダ政府は、様々な媒体を通じて「MLMは合法、ピラミッドは違法」というアナウンスをしていますが、これは単純に「だからMLMならば安心」というメッセージを示しているのではなく、暗に「定義を外れた活動を行った瞬間に、MLMも即違法扱いとなります」というニュアンスの啓蒙をしていると言えます。つまりMLMは、カナダにおいても、その定義において限りなくグレーに近い商法であるという点は認識しておく必要があります。

2. 本当に儲かるのか?

多くのリサーチ/統計 (例: AAPR study, 2018) によると、MLMで実際に$1でも収益を得られる人の割合は全体の25%程、他の25%程が何とか収支が均衡となる程度、残りの50%は収支でマイナスになっていると言われています。また、収益を得られている人の中でも、副業収入と呼べる程度の額を得られているのは、全体の1%以下であるとも言われています。また、MLMを始めた後、50%の人が1年以内に止め、90%の人が5年以内に止めているとする統計もあります。 MLMで収入を得る為に自らが費やす時間+労力と、得られる可能性のある収益とのバランスを考慮した場合、価値のある「投資行動」であるかという点に関しては、大きく疑問符を付けざるを得ません。
また、上記の「Competition Act」(同じく Section 55) において、「MLMに勧誘しようとする者は『典型的/一般的な参加者が実際にどれくらいの収入を得たか、またはどれくらいの収入を得ることが予想できるのか』を開示する必要がある」と明記されており、これを遂行しなければ違法となります。つまり「本当に儲かるのか」どうかは、客観的に示されたデータをもとに判断することができ、どうひいき目に見ても、ほとんどの場合は「典型的/一般的な参加者は...儲からない」という結論に至ることでしょう。

3. 勧誘活動

「友人/知人を勧誘するのに躊躇する...」、翻って「友人から勧誘を受けてショックだった...」など、MLMの勧誘に関しては、人間関係に変化が生じてしまうことが最大の懸念、または悪印象/不快感を生む原因となります。ただ、これは冷静に考えてみれば当たり前のことです。MLMのキモは「ネットワークを広げれば広げるほど、自分に入ってくる収益が増える」という点。つまり究極的に言えば、それまでの人間関係がどれだけ濃密 (あるいは希薄) であったとしても、「MLMに勧誘する」という行為は、「人間関係を現金化しようと試みている」という行為に他なりません。どんなにポジティブな言葉や数字で着飾ったとしても、あるいは勧誘者自身がその点を認識していないとしても、結果的に勧誘者が行っている行為は、その一点に集約されます。
  • その点を理解した上で開き直って勧誘してくる
  • その点を理解せずに純粋に勧誘してくる
  • その点を理解した上で冷静に勧誘をやりすごせる
  • その点を理解せずに同情/希望の感情を持ってしまい勧誘をやりすごせない
MLMの勧誘とは、まさにそのような四者四様の思いが交錯する人間交差点 (笑 なのです。
ここまで冷静に理解を深めておけば、自分がMLMにどう向き合うべきかという点は、必然的に見えてくるのではないでしょうか。

まとめ

繰り返しますが、弊サイトは「MLM」自体を完全に否定するものではありません。副業として追加収入を得るために日々努力をしている方や、末端で商品そのものを購入することのみで利用している方、あるいは、慣れないカナダでの生活で模索する内に結果的に関わりを持つようになった..なんていう方もいることでしょう。
日本では一切関わることがなく、また勧誘された経験もなく、カナダに来て初めて聞いた...という方は、とにかく自らしっかりとリサーチをして対処を出来るようにしましょう。
個々の経験等から、ある程度の理解を持っているという方は、「(良くも悪くも) 本場はこちらである」という点をしっかりと理解した上で、冷静な関わり方が出来るようにしましょう。